男木島の石垣とリノベーション

崩れた石垣の修復のお手伝いに、男木島へ行ってきました。男木島は車道がほとんどなく、狭い坂道が特徴です。その坂道の両側は石垣に囲まれ、家々がその石垣を基礎石にして建っています。その石がまた特徴的なのです。

基本的に讃岐平野のおむすび山は、基部に花崗岩があって、山頂付近に凝灰岩や硬い安山岩などがあり、男木島もそういう構造になっているのですが、男木島の場合は安山岩とともに玄武岩の柱状節理が露出しているところがあるのです。これが崩壊すると、ちょうど石垣に使えるサイズの石になるのでした。

安山岩や玄武岩は硬い石で、割って加工しようとすれば花崗岩などよりもはるかに手がかかるはずですが、柱状節理のおかげで玄武岩の積み石を得ることができたのです。そこで、男木島の人たちは、この玄武岩を海まで落し、船で集落のある港まで運んで、石垣を築いたのです。

でも石垣のコーナーの部分は「算木積み」といって、角張った長石を左右から交互に噛ませる積み方が有効ですから、そこだけは花崗岩の切り石を多用して積んでいるのです。花崗岩は乳白色、玄武岩は黒、そのコントラストが鮮やかで、それに「豊島石」と呼ばれる凝灰岩も加わって、石垣をより美しいものにしています。

さて、石垣はどうして崩れるのでしょうか? 先の震災のとき崩れた熊本城のように、地震でも崩れますが、多くは大雨のときに崩れます。雨によって石垣に裏側にある土が水を含み、土圧が高まって石を押し出してしまうのです。それを防ぐために、通常は石垣の石の裏にはグリ石(「裏込め石」とも言う)が入っているのです。

コンクリートブロックで擁壁(ようへき)を作る際も、裏側にはこのグリ石が入っていて、そこから水抜きのパイプを導いて雨や地下水を排水するようになっています。石垣の場合は接着剤としてのコンクリートは使わず、石だけで組んでいるのですき間がたくさんあります。そこから雨水が出るのですが、「裏込め石」がなければ水と一緒に土も出てきてしまいます。

すると石垣の裏側が不安定になって保持力がなくなるのです。「石垣は裏込めで保つ」という格言があるほど、この裏側のグリ石の存在は重要なのです。ところが、男木島の石垣を観察してみると、この裏込め石が入っていない石垣が多いようなのです。島という特殊性もあるのでしょう、島内でグリ石サイズの石が確保できなかったのではないでしょうか。それぐらい、石垣積みには大量の裏込め石が必要なのです。

それでも、これまで崩れることが少なかったのは理由があります。島では石垣の上に密集して家を建てているからです。石垣のきわまで建築物が立っていれば、雨は屋根によって道に排出されるので、石垣内部に雨は入りません。男木島の集落はまさにそのような建て方をしていたのです。またメンテナンスもなされていたでしょう。

ところが、過疎によって空き家が増え、倒壊する民家や解体せざるを得ない民家が多数出て、その跡地が畑や空き地になっているところが増えています。すると雨が石垣の内部に入ります。また、空き家になって手入れを放棄されると、雨樋が詰まったり、屋根が抜けたりしてやはり石垣内部に雨が入ることになります。

石垣の維持には手入れも重要なのです。石垣のすき間に草木が生えてきますが、それは抜いておかないと、水みちがふさがれたり、植物が大きくなると根が石垣を崩したりします。また天端に樹を植えている場合(島では風よけとして植える場合がある)、手入れを怠ると根が張り出して石垣をふくらませたり、高く大きくなった樹木が石垣に危害を与えるようになります。

つまり、裏込め石が少ない石垣であることに加えて、過疎による手入れ不足が崩壊を招いているのでした。さらに、石垣の知識が、現在の島在住の方々に伝承されていないという問題もありました。メンテナンスをしようにも、石垣の知識がなければ始まりません。また、小さな石垣であれば、崩れたものは自分たちで直せるようにならなければいけません。

島の人たちと交流する中で、石垣への理解が深まり、島の人たちが自分たちが積んだ石垣を「美しい」と感じてくれたのが嬉しかった。行政の支援も必要とは思いますが、現状では野石による空積みは構造計算ができないので、公共工事になった場合は法律上コンクリートになってしまうのです。だから、美しい石垣を守るには島の人たちの意識と行動力が重要なのです。

島には新しい移住者が増えて、古民家のリノベーションも目立ち、新たな文化が生まれようとしています。またセトゲ以来、男木島はアートの島でもあります。その基盤にいつまでも美しい石垣があることを願っています。

石垣ワークショップの経過

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