埼玉毛呂山町「きらめ樹間伐」訪問記

埼玉の毛呂山町で行われた「大地の再生 矢野智徳さんと歩く人工林『お見立て会』」に参加してきた。きらめ樹間伐(皮むき間伐)をという手法で人工林の間伐を行っている市民グループフォレスターズプラス」が、大地の再生 結の杜づくり顧問である矢野さんを講師に招いて水・風・土の観点から人工林を見てもらい、より良い間伐・森づくりについて考えるというものである。

住宅に使われる木材、その骨格の多くはスギ・ヒノキである。ここ数年の国産材スギ・ヒノキの出材量は増えており、乾燥技術やプレカット工法の進化によって、かつて外材が多く使われた頃に比べむしろ主流を占めるようになってきている。これは喜ばしいことなのだが、残念ながら現在山に残っているスギ・ヒノキ材がすべて住宅産業に使える良材かというとそうではないのだ。

スギ・ヒノキ人工林に「間伐(かんばつ/間引き)」は必須の作業なのだが、木材が安くて売れないという事情などからこの作業が遅れた林分がかなり多いのである。また「枝打ち」がされないと板に製材したとき死節が出て、いわゆる節穴が開いてしまう。また曲がり材はほとんど商品にならない。かつては曲がり材も丸太のまま横架材として上手に利用されたが、いまは角柱に製材されたものしか使われない。住宅産業がスピード化・画一化を目指しているため、木材は工業製品のように使われているのだ。

さて、間伐が遅れて放置された人工林は、もやしのような、お線香を立てたような、細くて暗い異常な林分になってしまうのだが、こうなると間伐しようにも残された木は風雪害に折れやすく、かといって弱い間伐では樹冠 がすぐに塞がって間伐効果が得られない。

そこで考案されたのが「巻き枯らし間伐・皮むき間伐」である。これは幹にノコ目を入れたり樹皮を剥くことで木を立ち枯れさせるという方法だ。枯れて葉が枯れ落ちると空間ができるので間伐と同じ効果が現れる。立ち枯れした木は1年ほどで葉を落とし、枯れることで風にしなりにくくなり、残された生き木の支えにもなってくれる。この方法は私(大内)が当時福井県の林務職だった鋸谷茂(おがや・しげる)さんの巻き枯らしを『林業新知識』誌上で連載し、そのブックレットが2002年に出て注目され、在野では「熊野の森ネットワークいちいがしの会」の後藤伸さんが熊野の人工林地帯で早くから提唱されていた(明日なき森)。

細い間伐材が使われなくなった今、荒廃極まった「線香林」を再生するにはこれしか方法がないと思うのだが、この「枯らす間伐」は有名林家には毛嫌いされ、研究機関には「立ち枯れにすれば生きた木にも虫が入る」などとバッシングされ、結果、林野行政はこの手法を間伐補助金として採用しなかった。というわけで現在の人工林の7~8割はこのような線香林状態のまま大型化しており、昨今の大型台風によって各地で大崩壊を起こし、土石流や水害被害の拡大を招いている。

2017年「九州北部豪雨」福岡県朝倉市

2017年「九州北部豪雨」福岡県朝倉市

 

2018年「台風21号」京都鞍馬

 

2019年「台風15号」千葉木更津

 

2019年「台風19号」神奈川裏丹沢

 

上の写真は、それぞれ私が実際に現地で見て撮影したものだが、人家の破損や水害被害にマスコミ報道が集中しているため、このような山林崩壊についてはほとんど報道されていない。だが、水源林であり、すべての一次産業の源(みなもと)である環境の核とも言うべき山・森林がこのような状態になっているのは、きわめて重大な問題である。

さらに恐ろしいのは、近年山の再生能力が落ちていることだ。日本の山の気候風土は世界最高といっていい植物繁茂の再生能力を持っているのだが、土がむき出しになった線香林状態が長く続いたために、養分や種の保存場所である「表土」が流され、かつ下流の土木構造物が空気と水の流れを滞らせて土の状態を悪化させ、ヤブが放置されることで風の流れを止め、そのため尾根筋までグライ化(無酸素・還元)土壌を蔓延させるまでになっている。

たとえば丹沢の頂上部にはかつてブナの原生林があったのだが、70~80年代から衰退し始め、現在では多くが枯死している。これは酸性雨やシカの食害だけでは説明しきれない。尾根筋の林床のササはほとんど枯れてしまい、代わりにスゲ類が繁茂し始めている。明らかにブナの衰退を招く土壌に変化しているのである。

その原因は沢筋に造られた過剰な砂防ダム、コンクリートの擁壁で固められたアスファルトの林道。すなわち人工構造物が地中の空気の動きを遮断しているためだ。また、登山道の整備自体にも問題がある。いい道は山を、森林をむしろ育てるが、悪い道は雨のとき水の過剰な通り道となり、地面を削って泥アクを流し、周囲の植物環境をヤブ化させる。

今回の毛呂山町でのイベントは、この人工林問題と「大地の再生」がコラボするという画期的な企画だった。が、矢野さんが体調不良で来られなくなり、急遽わたしが代打で人工林のことや大地の再生とのつながりをレクチャーすることになった。午前中は私のホームページやブログ記事を映しながら人工林のメカニズムを解説し、午後は「きらめ樹間伐」の現場を見て回った。

きらめき間伐(皮むき間伐)で再生した森

 

主催者の真剣さが現場からも伝わってきたし、このきらめ樹間伐のグループは九州や中部地方でも盛んに活動しているという。いまから20年前、鋸谷さんと四国の大川村で出会い、そこから走り続けて世に送り出した間伐のメソッド。かつて林野庁に黙殺されたこの方法が、いま市民の中で花開いている。

人の暮らしに最も大きな影響を与える「住まい」だが、現代住宅では地面の空気通しなどはまったく無視されている。また露出した土は草の管理が面等なことから蓋をされ、古い樹木は伐られる傾向にある。おかげで住環境の土はグライ化し、人体に有害な有機ガスを溜め込んでいるのだ。

住環境と周囲の自然とが連動して活性するような「大地の再生」手法(それは移植ゴテとノコギリがまの2つから始めることができる)が取り入れられ、スギ・ヒノキの山が再生して本物の木材が木の特性を活かすかたちで使われるとき、本当の健康住宅が生まれる。

大地の再生もきらめ樹間伐も、市民の中から、地元の方々との連携の中から動き出していくことで、流域的なつながりを得て成就していくだろう。もはや、今の日本にはこれしか希望が残っていないのだし、混迷を深める社会に大きな変革をもたらす最後の原石なのだ。

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